上市町ではたらく

本物のそばを味わってほしい

手打ち蕎麦 八笑(はっしょう)

森尻にある「手打ち蕎麦 八笑」。関東風の出汁と細いそばを基本に、つけだれや変わり蕎麦、トッピングを組み合わせ、約40種類と県内でもトップクラスのメニュー数を誇る。美味しさには定評があり、遠方からも訪れるお客さんやリピーターが絶えない。全国各地の美味しい材料を厳選して取り寄せ、バラエティ豊かなそばを提供。選ぶ楽しみも味わえる。デザートの「そば茶ぷりん」もおすすめ。

代表 大坪寛さん(61)

代表 大坪寛さん(61)ㅤ

 

そばが売り切れになる人気店

森尻の一画にあるお店、隣は薬局

森尻の一画にあるお店、隣は薬局

――お店はいつから始められたんですか?
オープンは平成22年です。元々、ラーメン屋だったところがやめられて空き物件になっていたので、改装して打ち場も作りました。家が滑川なので滑川でも探したけど、車の駐めやすさでも決めました。幹線通りではないけど、お客さんに、1つこれだと選んでもらえれば遠くても来てもらえると思いました。
――確かに車が駐車しやすいですし、一度存在を知られればお客さんに来てもらえますもんね。
ところが、少し甘かったなとオープンして1~2年は思いました。通りすがりの人が入りにくいみたいで。その頃はお客さんの入りによって一喜一憂していましたね。3年目からは、口コミでお客さんが増えていきました。いまでは、昨日・今日のようにそばが売り切れになる日もあります。
――売り切れってすごいですね。
手打ちのそばは1日に打てる量が決まっているので、お客さんが多い日は売り切れになるんです。他の手打ちそばのお店も、やはり売り切れになるところがありますよ。うちは席の予約はできませんが、お電話もらえればそばをよけとくこともできるので、遠くから来られるお客さんは電話されてから来られる場合が多いです。

第2の人生をスタート

店内はすべてテーブル席

店内はすべてテーブル席

――このお店をオープンされる前はどんなお仕事をされていたんですか?
30年ぐらい、金型設計の仕事をしていました。
――金型設計!? それはまた、そばと随分かけ離れた…。
そうですね(笑)。以前勤めていた会社から独立して、個人事業主として自宅でアルミサッシの加工金型の仕事をしていたんです。新しい製品が出るようになると金型が要るんですが、昔は新しいものがどんどん出て、仕事に困ることはなかった。でもモデルチェンジのスパンが次第に長くなっていき、外注は仕事の順番が最後に回ってくるので、鉄の仕事がある時と無い時の波があったんです。低迷する時期が5~6年あって、安定して稼ぎたいと思いました。1日でも仕事がないというのはなかなか辛いものですよ。そんな時、香川県のうどん学校へ1週間、習いに行ってきたんです。それから真剣にやろうかと、仕事をしながら物件探しを始めました。
――そうだったんですか。なぜ、うどん学校へ行かれたんですか?
元々、10年前くらいに趣味で八尾のそば大学へ3日間のコースに習いに行ってたんです。そこはそば打ち同好会としては有名で、素人の段位があるくらい。そばは中高年の食べ物というイメージがあって、お客さんの層が限られてくるんじゃないか、商売としてはうどんの方が成り立つのかなと思ってうどん学校へ行ったんですが、どっちが好きかと考えるとやっぱりそばだった。好きなものを仕事にしようと、そばを選んだんです。
――なるほど。好きなものを仕事に、ですね。
はい。でも開業するのにはお金がかかるから、老後の人生か第2の人生か悩みました。前職では製図版と鉛筆の芯、消しゴムさえあればできた仕事だったけど、今は材料を仕入れて売り上げの何割かが消えていく。それでも、30年近く同じ仕事をしていたら何か別の道に進みたいと思ったんです。金型の仕事の廃業届を出して、神奈川県でそば打ちから開業方法、経営まで教えてくれる「一茶庵 手打ちそば・うどん教室」へ1か月間行きました。そば打ち名人と言われれる、高橋邦弘さんの出身校です。そこは毎月5人しかとらないんですが、みんな同世代で、その内3人が同い年でした。新しい道を考える年齢なんですね(笑)。仲良くなって、今でも1年に1回、同窓生で泊まりに行きます。そのメンバーは神戸と名古屋で出店しました。そこの出身者は県内でも多く、有名どころでは富山市岩瀬の「丹生庵(にゅうあん)」さんや立山町の「そば処おきな」さん、高岡市の「手打ち蕎麦竹の子」さんがいます。
――そうなんですか~! 県内でも結構、そこを出られた方が多いんですね。

メニュー開発のヒント

入口に飾られたおすすめメニュー

入口に飾られたおすすめメニュー

――八笑さんにはかなりメニュー数が多いと思うんですが、どうやって考えられるんですか?
そうですね。学校では、鴨南蛮、天せいろ、卵とじとか、昔ながらのそばは習ってきたんです。ちなみにうちの卵とじは魚津市の稲森ファームの卵を使ってますよ。あとは、テレビの料理番組を見るのが好きだから、そこからヒントを得ることもありますよ。「どっちの料理ショー」で長野の葉わさびを温かい蕎麦に乗せて食べることがある、というのを見て、翌日冷たいそばに葉わさびととろろを合わせてみたら美味しかったんです。だからネットで全国各地の葉わさびを取り寄せてうちのそばと出汁に合うものを選んだ。そういう風に、食材が決定するまでのこだわりがあるんです。
――テレビからもヒントを得られるんですね。
はい。テレビやラジオ、雑誌など、アンテナ張っていろんなメニューをやってきたんです。そば仲間と情報交換したり、仲間のブログを見たり。思いついたものはとにかくまかないからやってみようと。私たちは毎日そばを食べるんで、同じものだと飽きるんですよ。組み合わせを変えたら美味しかった。私は高校まで山岳部で、元々、山で料理をするので包丁を持つことは苦ではなかったんです。上手ではないけど(笑)。大学生の時も自炊だったし、あるものでパパッと作るのは得意なんです。

店内で毎朝そばを打つ大坪さん

店内で毎朝そばを打つ大坪さん

――そうなんですか~。では、出汁はどうやって決められたんですか?
富山のお蕎麦屋さんて大抵関西風で、昆布が入るんです。そうすると、あたりが柔らかくなる。でもうちの出汁は関東風にしました。ガツンとパンチの強いのが好きだからカツオブシと濃い口しょうゆを使って、後味はすっきりとした感じ。醤油とみりん、砂糖など、それぞれ5~6種類から組み合わせて作り、家族に試食してもらいました。最終的には習ってきたのがベースになりましたが、割合はオリジナル。薄味になるように醤油少なめにしました。今でも他の店に食べに行くこともあって、麺は美味しいなと思うけど、出汁はうちのが1番美味しいと思うんです。手前味噌になりますけど(笑)。
――(笑)。いえ、私もよく食べに来させてもらっているんですが、本当に美味しいと思います。では、八笑さんの1番の売りは…?

くるみの風味が後を引くくるみダレ

くるみの風味が後を引くくるみダレ

メニューの多さはそば専門店で県内一かもしれません。関東風のしっかりとした出汁でそばを食べていただければ。甘いのから辛いのまで、大半はほかの蕎麦屋さんがやっていないメニューなので、うちでしか食べられないものを食べてもらいたいと考えています。新しいメニューを次々に出してて、お客さんから「もういいんじゃないの」と叱られることもありますが(笑)。「そばにはこんな食べ方もあるんだ」ということを知ってもらいたいです。ただ、私らが美味しいと思っても、お客さんはどうか分からない。例えばくるみダレにはハチミツが入ってるんですが、わさびがあったら良かったと言われたこともあります。新しい食材を使うときはまずクックパッド(料理サイトアプリ)で調べるんです。何と合うか調べて試食し、食材を取り寄せてまた試食。馴染みのお客さんに意見を聞いて取り入れ、タレの残り具合も見ながらメニューを安定させていく。
――クックパッドを駆使されているんですね。合う食材を調べるという使い方もあったとは、びっくりです。
みんなが何と合わせているかをリサーチしています。100人いたら30人、つまり10人に3人美味しいって言ってもらえれば当たりかなって思うんです。うちは、1回来てもらえたらもう1回来てもらえる自信を持ってやっています。

期間限定の変わり蕎麦

1.3㎜の薄さに仕上げるそば

1.3㎜の薄さに仕上げるそば

――では、そばの方はどうですか?
そば粉は、産地によって品種が違うので、長野か茨城産のものを使っています。二八蕎麦といって、小麦粉2:そば粉8という割合です。毎朝3回ほどそばを打つんですが、味を決めるのは水回し。蕎麦屋の用語で、「木鉢3年、のし3か月、切り3日」という言葉があるように、こねるときに水を均一に回すのが重要なんです。そばは乾かすのが1番ダメ。「風邪ひかす」って言うんですよ。いいそば粉を選ぶことと木鉢をしっかりやることで7割くらい決まるんじゃないかな。東京の高級な蕎麦屋さんだと1人前100gほどで少ないけど、うちは150gに揃えています。僕的には、1.3㎜の薄さに仕上げるのがベスト。心の乱れが合ったら均一には包丁を落とせない。昨日なんかサッカーやってると…(笑)。

1人前150g分を小分けにして効率UP

1人前150g分を小分けにして効率UP

――サッカーの試合には心乱されそうですね(笑)。あ、八笑さんには、変わり蕎麦というものもありますよね。
はい。そばの実は外側が茶色っぽくて香りが強く、中心は更科粉と言って白くなるんです。ほとんど香りがしないので、他の物を入れると染まりやすい。だから変わり蕎麦を作れて、塩で食べるんです。桜の葉っぱを練りこんだ「桜切り」や柚子を練りこんだ「柚子切り」、けしの実のけし切り、レモン切り、ブラックペッパーなどを期間限定でやっています。でも変わり蕎麦は、打つのに体力がいるんですよ。粘りを出す工程が難しい。おかげさまで土日はそこそこお客さんに来てもらえるようになって、以前は土日に変わり蕎麦を打っていたけど、体力がなくなってできなくなってきたという面もあります。
――そば作りは体力勝負なんですね。大坪さんは何か運動されているんですか?
はい。夫婦で、ビーチボールをやっていますよ。厨房は夏場が特に暑く、熱気で室温40度くらいになるので体力勝負です。

心豊かに楽しくそばを味わってほしい

そば茶の入った器も美しい

そば茶の入った器も美しい

――店名の由来は?
「八」は、末広がりの意味と、家内の父が八郎さんなので、そこからつけました。「笑」は、笑うのが好きなので。いつも、お客さんがにこやかに美味しく満腹になってもらうにはどうすればいいんだろうと考えています。先日、定休日に長野県の戸隠まで1日かけてそばを食べに行って入ったのが、たまたま「笑」という字が入った「山笑」というお店でした。そこも美味しかったですよ(笑)。
――偶然ですね(笑)。では、大坪さんが、こんな店にしようと心がけておられることは?
当たり前のことなんですけど、熱いものは熱いうち、冷たいものは冷たいうちに出す。例えば天ぷらは、忙しくて作り置きしないといけないなら冷えてしまうから、オープン当初はなかったんです。慣れるまではやめとこうと決めて、2年目の後半、そばができる時間が読めるようになってから始めました。ほかの店に食べに行ったときに、「これは嫌だったね」と思ったマイナス面を参考にし、それを改善するにはどうすべきか考えます。温かいそばのときも蕎麦湯を出すとか、お客さんに喜んでもらえるように心がけています。知っているお店で、裏でお客さんを馬鹿にしたように市販のとうがらしやチューブのわさびを使っているお店があったんですが、1年でつぶれましたよ。お客さんには誠実に対応し、本物を出さないと。心豊かに楽しくそばを食べてもらえたらと思い、そのためのサービスを心がけています。

信楽焼の爪楊枝入れたぬきと花

信楽焼の爪楊枝入れたぬきと花

――テーブルにはいつも、かわいらしいお花が添えてありますよね。
それは家内の心遣いです。家の庭に咲いているものを摘んできて、毎日来て最初に活けますね。爪楊枝入れは信楽焼のたぬきですし、壁に飾っている手ぬぐいは季節ごとに変えています。花や小物は彼女の1番のこだわりです。
――そうなんですね。お店をされていて、やりがいを感じられるのはどんなときですか?
「美味しかった、また来るよ」と言ってもらえる時ですね。食べ物屋の定番の褒め言葉ですよ。お客さんが別の人を連れてきてくれて、またその人が別の人を連れてきてくれるとか、また顔を出してくれたら嬉しいですね。

新メニューの構想

――夜は土曜日のみ営業されているんですね。
はい。土曜日だけは頑張って営業しようかなと。飲まれる方のために、お酒は4種類、こだわりの辛いのを入れています。特に「池月」は1本ずつしか売ってもらえないお酒なので、お客さんに喜ばれています。ほかも、みんな小さい酒造さんのものなので、なかなか手に入れにくいものなんです。つまみになるものも置いていて、「焼き味噌」はくるみ、ネギ、柚子、カツオブシなどを混ぜ込んであって美味しいですよ。関東では、鴨南蛮の「抜き」と言って、そば抜きの具だけ食べてお酒を飲み、最後にそばを1枚溜めるというのが通の人の食べ方です。
――そういった楽しみ方もできるんですね。あと、デザートの「そば茶ぷりん」も絶品ですよね。必ず食べます。
「そば茶ぷりん」は、お菓子作りを好きな娘がレシピを考えました。1日6個限定で販売しています。
――今後、挑戦したいメニューはどんなものですか?
かきあげをバラで揚げて真ん中に温泉玉子を乗せた新メニューも考えています。材料は冷蔵庫にあるので、POPさえ作れればすぐ出せるんです。いつもは娘がパソコン得意なんでやってもらってるんですが、出産間近で。何とか新しいアイディアで美味しく作りたいと、いつも考えています。釜揚げうどんならぬ釜揚げそば…熱い出汁につけて食べるとか、ありそうで無かったメニューだけど、意外とヒット商品になるかもしれません。
――発想がどんどん広がって面白いですね。これからも、新メニュー楽しみにしています。大坪さん、今日はどうもありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。

八笑さんには従来のそばはもちろん、変わったそばが多数あって選ぶ楽しみがあります。もちろん、どれを食べてもそれぞれの美味しさがあり、今度はまた違うそばも食べてみたいと思うんですよね。量も、お蕎麦屋さんによっては女性の私でも少ないなと感じるお店がありますが、八笑さんのはちょうど良く、そういうところもいいなぁと思います。ちなみに私が好きなのは、くるみだれ蕎麦です。くるみには悪玉コレステロールを低下させる効果が期待できると言われているそうなので、健康にもいいですね。あと、しつこいようですが(笑)、そば茶ぷりんが絶品です! ぜひそばの後に食べて、多くの人に美味しさを分かち合ってもらいたいです。

●おすすめメニュー●

 
 

●DATA●

店舗名 手打ち蕎麦 八笑
住所 上市町森尻391
電話番号 076-473-3262
オープン年月日 平成22年3月12日
代表者氏名 大坪寛
営業時間 11:00~14:00(L.O.13:30)1月・2月は11:30開店*そば無くなり次第終了
定休日

火曜・水曜・金曜、祝日の月曜日

駐車場 6台
ホームページ http://www.soba-hassho.com/
Facebookページ なし
メニュー 八笑せいろ、天せいろ、えび天おろし蕎麦、ぶっかけにしん、ごまだれ蕎麦、ほか
設備・情報 禁煙席あり、ベビーカー持ち込み可、離乳食持ち込み可

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