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「上市町まちづくりトークvol.1」レポート
こんにちは、古野です。
今日は、2月22日(水)16:30-18:30に上市町保健福祉総合センター(アルプスの湯の建物)の会議室で開催されたトークセッション「上市町まちづくりトークvol.1」のレポートを書きます。
トークセッションのタイトルは、
山の中の5000人の町に 20の会社が引越してきた秘密
~徳島県神山町で会社と滞在型宿泊施設を経営するマルチ夫妻に色々きいてみよう ~
まず、このタイトルにすごく惹かれました。
「え、どういうこと!?」ってなりませんか(笑)。
数字も入っているし、心くすぐる素敵なキャッチコピーだと思いました。
「マルチ夫妻」というのは、 隅田徹さん・樋泉聡子さんご夫妻。まちづくりにおいて常に話題の先端を走っている徳島県の神山町で、隅田さんがIT会社「株式会社プラットイーズ」の取締役会長。
樋泉さんは交流型宿泊施設「WEEK神山」の女将を務めておられます。
トークセッションではこのお2人をゲストに招き、お話を聞かせてもらうというものです。
このトークセッションを企画したのは、平成28年度から上市町の移住促進・産業振興などに携わっている企画課参与の加形拓也さん(電通)。
加形さんのブログ「いったりきたり日記」によると、加形さんは何と現地へ行き、突撃で依頼されたそう。 素晴らしい行動力です!
トークセッションは、とても興味深く、面白かったです。
というわけでここからは、どんな内容が話されたのかを簡単に紹介したいと思います。
【隅田 徹(すみだ てつ)さん】
大阪生まれ、東京育ちの55歳。
元々、映像制作会社に勤務していたが、38歳で退職して39歳で起業した(2002年、株式会社プラットイーズを設立)。
東京の恵比寿に本社があり、映像業務のアウトソースをまるっと請けている。
フィルムは100年、テープだと40年しかもたないが、「アーカイブ」として古い映像やビデオをデータに残すことで、1000年、2000年残せるようになる。
古民家オフィス開設に至る経緯
PCを使って行う仕事は物流がなく、製造業でもないので、どこでも成り立つ。
東京の一極集中だったため、本社機能の分散を図るために2013年、徳島県神山町に古民家オフィスを開設した。
機能の分散は映像業界で推進されており、欧米の同業者からの影響を受けてオフィスを田舎に置くことを決めた。
クリエイターなので、「面白いか面白くないか」「日本であまり人がやっていないことをやろう」と考えた。
なぜ徳島県神山町へ?
徳島県を選んだのは、光ファイバー網が充実していてインキュベーション施設(創業支援設備)が多く、非製造業を誘致していたため。
2009年当時はほとんどの都道府県がベンチャーの誘致はしておらず、労働集約型の製造業とかが求められていた。そんな中、全国20カ所の候補の中から、徳島県神山町に決めた。
ちょっとゆるい空気感がいいと思った。
神山にはアーティストの人が多く、アートで町の活性化をしていたため、クリエイティブな仕事をするにもちょうどいい。
以下の4点も決め手となった。
・「民間主導」のまちづくりや政策展開。自治体はあくまでも補助的な役割。
・「多様性の尊重」。無理に一本化しない。同時多発的に物事が展開し、それぞれが効く。
・「新しい働き方」として、サテライトオフィスや副業、起業、地域活動など既に先達が多い。
・「少し寛容」。地域に合わせろとは言わない。厳しいルールがあまりない。地元のルールを強要しない。例えば、地元の掃除とかをやらない人を叩かない(非難しない)。自発的にする人のみ。
えんがわオフィス
外観は古民家、中はIT化されている。快適で都心のオフィスと同じような仕様。光ファイバーでプロ用の映像といった大容量のものでもアップロード&ダウンロードできる。こういった環境は特にここ5年で発達を遂げ、ネットで納品できるようになった。
4Kコンテンツの配信等に関する新事業に取り組み、地元企業と連携して4K徳島映像祭を開催。平成28年の4K徳島映像祭の際は、人口5,700人の神山町に3,400人が訪れた。「こたつシアター」で4Kを鑑賞し、2,900人が来場した。
また、産学官連携で徳島版の地域アーカイブである「徳島アーカイブ」を作っている。「地域アーカイブ」とは、地域固有の文化や景観、人々の営みが移された映像・写真を情報(メタデータ)とともにデジタル化し、半永久保存する事業。
神山町には特定の部門や部署が置いてあるのではなく、各部署に所属する人が東京にも徳島にもいるという形。どちらも、働く場所でしかない。
社員は働く場所を東京か神山か好きな方を100%選択でき、1年以上いれば行ったり来たりして構わない。
場所ではなく仕事で年俸が決まるため、場所が変わっても給与や役職、評価は変わらない。
若い人の方が地方で働きたがり、希望者は男性よりも女性が多く、地方出身者より都会出身者の方が多い。住民票も移し、家族がいる人は一緒に移住する。未婚者は7割以上。
暮らしの面
不動産会社がないので、オーナーと直接やり取りしなければならない。現地訪問は地元の人からの面接も兼ねている。
会社で2軒(男性用・女性用)のシェアハウスを用意しているが、一時的なものであり、1~2年で出なければならないことにしている。
賃借住宅はない。
保育園は必ず入ることができ、2人目以降は保育料が無料。
高校は農業科しかない。
教育問題に熱心に取り組んでいて、小中学校の教壇に立つことやオフィスに2日間ずつインターンに来ることがある。
そういった取り組みにより、スマホアプリの開発や車の設計など、社会には様々な職種があることを子どもたちに知ってもらえる。そのために、子ども向けのプログラムなども行っている。
神山は否が応でも人と関わらなくてはならない。そのため、人間的にしっかりしてくる。他社スタッフも地元の人も顔見知りばかり。若者を育てるのに非常にいい環境。
スタッフ全員で米作りを行っており、それが自発的なチームビルディングにもなっている。
地方でも格差や不便はない
・ネットで納品できるようになったこと。
・業界のニュースや情報も全く同じ日にwebで見られること。
・アスクルも翌日届くし、Amazonもそれ以外で買う必要がないくらい品物が充実している。
・ほぼ全ての情報が共有サーバー上にあり、日本のどこからでも見ているものは同じ。
・新卒のうち、2割は地方志向の人がいるため(しかも高学歴)、人材獲得上有利になった。
・多様性が認められる時代になった。
こういった理由で、地方でも格差や不便なことはないと感じている。
ただし、在宅は生産性が6割くらいに落ちる。ノウハウを持ち、自己管理能力が高い人でないとできない。
通勤有りのサテライトオフィスだと生産性は変わらない。
実は地方は、考える仕事(経営、管理、運営、デザイン、企画、制作)に向いていることが、同一人物の仕事ぶりを比較するとよくわかる。考える仕事の方が付加価値は高い。
一方、ルーティンワークは東京の方が効率がいい。
神山町の現状
・人口は2万人。昭和バブルの頃に出て行った人が多い。
・人口減少以上に、飲食店(特にスナック、飲み屋)が減少している。飲酒運転の厳しい取り締まりによる影響もある。
・農業は酢橘(すだち)が主。
・現在は移住者が増え、空き家がなくなるくらい。
・Uターン者も増えている。市民の方の意識が違う。町の中心人物の多くはUターンで戻って来た人。
・出て行く人を止めるのは難しいが、一旦出て行った人が戻ってくることが多い。(孫が帰ってくることもある。)
WEEK
サテライトオフィス体験宿。地方での普段の暮らしそのものを体験する。観光はこしらえたものでなく、世の中にそもそもあるものを体験したいのではないかと仮説を立てた。
クラウドファンディングではなく、公民館で説明し、ファンディング(資金調達)を行った。賛同してくれたのは、65歳以上の方がほとんど。
1口5万円で2,000万円集まった後、町や国(総務省)も協力してくれた。
毎晩交流会を行い、地元のサテライトワーカーや住民も参加。メーリングリストに1,000人近く入っていて、メールを流すと人が集まってくる。
19時から食事。昼はコワーキングスペースで自分の仕事やセミナーに参加できる。
上市町にも活かせそうなヒント
・神山は普通の田舎。その地域ごとの個性は、地元の人が思っているよりもあるもの。
・古民家と一口に言っても、長屋や散居村など、ありそうで他にない光景を、特定の場所だけでも維持することがその地域のカラーにつながる。
・クリエイティブ業はリアルで体を動かす仕事をしている人から見ると遊んでいると思われがち。考えることやデザインとの役割分担がうまくできるといい。お互いに尊重する気持ちが大切。
・生活習慣や考え方が全然違ったため、最初はトラブルもあったが、徐々に互いに歩み寄って行った。
・神山町ではスギを用いて林業に携わる人や素地師などでプロジェクトチームを組み、高い付加価値をつけた品を作っている。
このトークセッションの内容で、上市町にも取り入れられることはいくつもあると思いました(それを上のヒントとして書いてあります)。
町ぐるみで光ファイバー網を整備し、IT企業が移転しやすい環境を整備することは莫大な予算がかかることですが、「多様性の尊重」や「寛容さ」といった精神面は、地元の人が変えようと思えば変えられます。歴史や伝統的なもの、地元の風習も大事にしながら新しい風を入れることにみんなが協力していくことができればいいなぁと思います。