上市町ではたらく

祈りをテーマにした絵画や古代の陶磁器など幅広く展示

西田美術館

富士化学工業株式会社の敷地内に建ち、同社が運営する私設美術館。北アルプスを眺望するように建設されている。
シルクロードにおける国々の交流のなかで発展した陶磁器をはじめ、ロシアイコンやマンダラ画、中央ヨーロッパの絵画などがある。また、国内外で著名な作家の企画展や、県にゆかりのある注目若手作家を紹介するART BOX(アートボックス)152、地域で作品を制作する方の特別展を開催している。
西田美術館の願いは、作家が展示を通して一段と飛躍し、鑑賞する人たちが優しい心や温かな感動に包まれることである。

館長 山口松蔵さん(76)

館長 山口松蔵さん(76)


 
 
 

西田美術館の特色

――西田美術館について教えてもらえますか。

富士化学工業の敷地にある西田美術館

富士化学工業の敷地にある西田美術館

富士化学工業株式会社2代目社長 西田安正 氏(故)が、1993年(平成5年)に設立しました。今から5,000年前のシルクロードの陶磁器をはじめ、ハンガリーやロシアの珍しい絵画作品など1,600点あまりを収蔵しています。私たちが生まれるずっと以前から、暮らしのために、あるいは楽しみとして美術が存在してきたことを、この美術館の鑑賞を通して実感できます。

――古い作品はどのようなものがありますか。

紀元前1,000年の動物型注口壺

紀元前1,000年の動物型注口壺

第1展示室では、中国、ガンダーラ(パキスタン北西部)、ペルシア(イラン南西部)、ローマ、ギリシア、エジプトなどで作られた古代陶磁器や仏像などを展示しています。お酒や水を入れるのに使用された面白い形の作品や、色彩の美しい作品などを見ることによって、美術の楽しさ、制作技倆(技量)の素晴らしさを感じていただけるでしょう。

第3展示室では、ロシアイコン(ロシア正教における、キリストや聖母マリア、聖人などを描いた図像)を展示しています。所蔵する作品は70作品。日本では玉川大学と並んで最も多い数です。また、入善町出身の洋画家 前田常作氏(故)が、祈りをテ-マにして描いた多くのマンダラ画も鑑賞できます。西洋と東洋の祈りの世界が、この部屋でご覧いただけるのです。

 

展覧会の企画テーマは3つ

「秋山庄太郎展 薔薇とタカラジェンヌ」の様子

「秋山庄太郎展 薔薇とタカラジェンヌ」の様子

――美術館は企画展や運営も重要ですよね。

そうです。西田美術館では年間3つのテーマを中心に企画しています。

1つは国内外で著名な作家の企画展です。近年は版画家 南桂子と詩人 谷川俊太郎の企画展、日本画家の東山魁(かい)夷(い)展、富山ガラス研究所の教員によるガラスの現代アート展、絵本で有名ないわさきちひろ展、写真家の秋山庄太郎が撮影した花と女優の作品展などを開催しています。

また、平成29年度は飛騨千光寺にある円空仏(岐阜県指定文化財)と昭和を代表するデザイナー田中一光氏の企画展の準備を進めています。平成30年度には世界中の美術ファンが開催を希望する、マリー・ローランサン展を計画しています。

美術作品は見る人の心に変化をもたらす

美術作品は見る人の心に変化をもたらす

2つめは、若手作家の育成を目的とした企画展です。評価の定まらない若手作家を、美術館で取り上げるのは珍しい試みです。約152平方メートルの展示室を使用するので、ART(アート) BOX(ボックス)152と称して毎年開催しています。このメンバーから全国的に活躍する作家も多くいます。

3つめは地域性です。県内作家の企画展はもちろん、毎年特別展として上市美術会展の開催や、上市町在住の作家の特別展も開催しています。

 

庭と北アルプスの崇高な峰の眺望

剱岳が望める2階からの眺望

剱岳が望める2階からの眺望

――美術館正面に広がる庭も、2階からの北アルプスの眺めも良いですね。

はい。有名な寺院などが庭を取り込むような構成で私たちを別世界に迎えてくれるように、西田美術館は庭や北アルプスの眺めも大切にしています。2,700平方メートルの芝生の庭には、日本で2番目に大きな「珪化木(けいかぼく)」という木が化石化した石、数人が手をつないでやっと取り囲むことが出来る巨大な26トンもある亀甲石

剱岳資料コーナーのある休憩室

剱岳資料コーナーのある休憩室

(きっこうせき)、佐渡の赤玉石などが、緑の芝生と調和して見事です。お客さんに喜んでもらえるように、職員や業者が入念に世話をしています。

また、美術館が場所を提供し、剱岳資料コーナー運営委員会(会長:武田宏さん)が2階の休憩室の書架に資料を置いています。2階休憩室のみの利用であれば無料で入館できます(展示室をご覧頂く場合は入館料が必要です)。

 

美術館の使命

展示室の一画

展示室の一画

――美術館とはどういう場所だとお考えですか。

ひとことで言うと、感動がある場所だと思います。作家は、私たちよりはるかに優れた感性と創造性、それに表現する技量を持っています。そこから生まれる作品が私たちに大きな感動を胸いっぱいに与えるのです。腹八分という言葉は、食事は少し抑えて、と言うことです。美術館で胸いっぱいに受ける感動に限度はありません。「腹いっぱい」は体重増になりますが、「胸いっぱい」は、心を限りなく豊かにしてくれます。

庭に設置された西田安正氏の像

庭に設置された西田安正氏の像

――美術館の運営に必要なことは何でしょうか。

入館された方が、入館時よりも、心豊かな感動を受けてお帰りになるように努めることです。美術館は、丁寧に的確に対応する受付事務の職員、美の世界へ誘う学芸員、館内外をじっと見ている館長などの協力で成り立っています。必要なことは、それぞれの役割の協力です。

――館長ご自身のことを聞かせてください。

平成20年に、西田美術館の館長を、初代 西田安正氏から引き継ぎました。私は40歳まで、滑川高校や富山中部高校の英語教員でした。英語は、企業も文化も国際性をもつ時代に、幾分かは役立っていると思います。それから平成10年に、現在場所を変えて新築中の美術館である、富山県立近代美術館(現・富山県美術館)の館長になりました。長い年月、館長として美術館に勤務したおかげで、相互に信頼する多くの友人がいます。その方たちの大きな支援を、運営に結びつけることができるのは、とても幸運なことです。

 

学芸員のしごと

1階廊下のフィギュリン(マイセン陶器の人形)

1階廊下のフィギュリン(マイセン陶器の人形)

――学芸員の方の仕事について教えてもらえますか。

学芸員の仕事は作品の魅力を伝えることです。作品の調査も多く、新たな発見もあります。作品解説の際、お客様にとっても、新たな発見があるとやりがいを感じます。また、高所作業や重い作品を扱うことも多く、体力勝負でもあります。作品を丁寧に扱うことや、見やすい距離、間隔、角度など、繊細さも求められる仕事です。ライトの当て方によって作品の印象が変わるなど、細やかな意識や作業の積み重ねが求められます。これからも、より面白い作品を皆様にご高覧いただけるよう努めます。

 

庭にある「珪化木(けいかぼく)」

庭にある「珪化木(けいかぼく)」

ARTBOX152は、これから活躍される作家さんの瑞々しい感性にあふれた作品に触れることができ、美術・芸術にそう詳しくない私でも楽しめる展示ばかりでした。上市町在住のカメラマン・内山康弘さんの特別展に行ったときは、白竜橋の橋柱など「身近な風景の中にこんな面白いものがあるんだ」という新たな発見がありました。
「胸いっぱいにどれだけでも吸収できる」という山口館長の言葉から、地域に美術館があることで大人はもちろん、子どもたちにも芸術に触れる機会が増え、感性を伸ばすきっかけにできるのだと思いました。

また、以前上市町の冊子「かみいち町民のネタ帳」の「ネタ帳遠足」というイベントで、西田美術館の庭にある岩のようなものが「珪化木(けいかぼく)」という、木が長い年月を経て化石化したものだと知りました。庭や2階からの眺望も含め、様々な角度から芸術を楽しめる西田美術館。今後の企画展も楽しみですね。

 

●DATA●

施設名 西田美術館
住所 上市町郷柿沢1
電話番号 076-472-4352
FAX番号 076-472-5559
E-mail nishida-museum@fujichemical.co.jp
休館日 月・火曜(※祝日の場合は翌日)、年末年始、その他展示替え等の為、臨時休館あり
開館時間 9:30~16:30(入館は16時まで)
今後の予定 【企画展】
「ART BOX 152 第9回 」2017年2月15日(水)~3月11日(土)
【館蔵品・常設展】
「シルクロード 冴え冴えとした輝き」
「東洋の祈り・西洋の祈り」
「崇高な山山」
「世界の絵画展」
(企画展等により変動、要お問い合わせ)
入館料 ●常設展・館蔵品展 一般:500円(400円)/大学生:300円(200円)/高校生以下:無料
各種福祉関係手帳をお持ちの方は200円(引率者1名同料金)
●企画展 一般:700円(500円)/大学生:400円(300円)/高校生以下:無料
各種福祉関係手帳をお持ちの方は300円(引率者1名同料金)
●ART BOX 152 一般:300円(200円)/大学生:200円(100円)/高校生以下:無料
各種福祉関係手帳をお持ちの方は100円(引率者1名同料金)
※上記の料金で、常設展・館蔵品展も観覧できます。
※( )内は15人以上団体割引(団体申込は2週間前にお知らせください)
※料金には消費税が含まれています。
ホームページ

http://www.nishida-museum.com/

Facebookページ なし
開館 平成5年9月
館長 山口松蔵

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