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1日1組限定の古民家宿
ゲストハウス松月(しょうげつ)
料亭として使われていた築100年の古民家を改修した、1日1組限定のゲストハウス。予約はAirbnb(エアビーアンドビー)のサイトから受け付けていて、特に外国人観光客から人気だ。地下には「コーヒー&スナック もぐら」があり、もぐらのママでゲストハウス松月のオーナーでもある細川和子さんが温かく出迎えてくれる。宿は上市川の白竜橋のそばにある。
古民家でゲストハウスを共同経営
――まず、細川さんにお聞きします。ゲストハウス松月について教えてもらえますか。
この建物は元々私の実家でした。1915年に建てられ、「松月」という料理旅館として使われていた築100年の町屋の古民家です。1981年からは地下で「コーヒー&スナック もぐら」を営業していますが、その2階が空いていたので、リノベーションして宿泊できるようにしました。2018年12月開業です。1日1組限定で、予約はAirbnb(エアビーアンドビー:泊まる場所を探す旅行者と、空き家・空き部屋を貸したい人をつなぐオンラインサービス)のサイトから受け付けています。空いていれば当日予約も可能です。
――古民家をゲストハウスに改修され、最先端な事業をされているんですね。
2016年度から2018年度まで上市町のアドバイザーを務めていた、株式会社 電通の加形(かがた)拓也さんからの発案で働きかけがあり、私(オーナー)、加形さんから紹介された御子柴雅慶(みこしばまさよし)さん(代表社員)と吉玉泰和さん(企画担当)で合同会社を立ち上げ、「ファンファン上市」という社名で共同経営しています。御子柴さんと吉玉さんは、東京の「マンガ アート ホテル トーキョー」の経営をはじめ、宿泊施設の運営代行も手掛けているdot(ドット)の2人です。私以外の人は東京や関東にいて、オンライン上でAirbnb(エアビーアンドビー)の予約受付やコメントへの返信をしてくれています。掃除とベッドメイキングは上市町のシルバー人材センターに協力いただき、布団とリネンのレンタルは上市町の株式会社マツモトと、地元にお金を落とす仕組みを作っています。
――事業の仕掛人は加形さんだったんですね。
はい。加形さんが就任1年目に上市町観光協会のセミナーで講師をされた際の「町に足りないものは宿泊施設。お客さんを呼んでも泊まるところが少ない」という言葉がずっと頭にありました。そして3年目に見学に来られた際、「ゲストハウスをやりたいですね」と言われたのが直接のきっかけになりました。
私は元々、上市町が2011年に発表した「観光元年キックオフ宣言」から、町に人を呼び込みたいと思っていたんです。上市町商工会のいろんな活動を通して町の活性化の一助になればという想いで、商工会女性部の部長を10年務めました。みんな「何もない町やちゃ」と言うし、私も以前はそう思っていました。でも、女性部長としてみなさんにインバウンドについて教えてもらう内に、テーマパークのような華々しさはないにしても、人情や風情、そこに吹いている風、匂いなど、そういうものがごちそうだと、70数年生まれ育った上市町の良さに気が付いてきたんです。
――既にある魅力に気付かれたのが素敵ですね。
2018年に東京の赤坂会館で開かれた「かみいち若者同窓会(上市町役場主催)」に行った時、若い人たちから刺激を受けたこともありました。昔、うちの細川写真館に写真を撮りに来てくれたことのある人も多く、上市の好きなところを聞くと「白竜橋」や「おしょうらいこ」、「大岩山」など、たくさん出てきたんです。こんなに上市町を愛している人ばかりなんだから、「絶対帰ってきてね」と伝えました。ゲストハウス松月のオープンに至っては、家族の協力はもちろん、上市町商工会や役場の方々が相談に乗ってくれました。特に行政の協力が大きかったです。
――町民の方々も協力してくださっているんですよね。
そうなんです。例えば上市町在住の写真愛好家・内山康弘さんは、毎日、松月のそばにある白竜橋で剱岳や風景の定点観測写真を撮影されています。その風景や、松月の窓に夕日が映った様子を写真に収めて印刷してプレゼントしてくださることが多く、いつも楽しみにしています。ほかにも、「和風カフェ 胡桃(くるみ)」のママにモーニングをメニューに加えてもらうなど、いろいろな人にお世話になっています。
世界から上市町へ
――オープン後は、どんなお客さんが来られますか?
中国や台湾、マレーシア、イギリス、アメリカ、フランスなど、世界中から来てくれます。20歳前後から若い人が多いですね。共通語は英語です。ほかは単語くらいしか言えませんが、タブレットの翻訳アプリで「食事はもうお済みですか」など音声入力してやり取りでき、カタコトでも、いろんな人といろんな話ができるのが楽しいです。お客さんがタブレットを操作してくれることもあります。
来る人はみんないい人ですよ。お客さんの写真を撮って送ってあげると喜ばれます。上市町の方々からも、町の中でコロコロとキャリーケースを引っ張って歩く外国人を、よく見かけるようになったと言われます。
――お客さんは、上市町でどのような過ごし方をされているんでしょうか。
松月には無料レンタルできる自転車が2台あります。それに乗って早朝に周辺を回っている人もいますし、お盆の花火を見に来られる方もいます。上市町内だけで過ごすのではなく、冬は立山山麓へスキーに、春は滑川市のホタルイカ観光など、周辺の市町村へも観光に行かれます。以前、アメリカ人の若い夫婦がホタルイカ観光に来られたとき、困ったことがありました。
集合時間が午前2時なのですが、タクシーは通常夜12時で終わるし、レンタカーも借りられない。けれど、送迎するのも安全性を考えるとやはりプロに任せた方がいいので、タクシー会社と交渉して最終便と朝一番に片道ずつお願いしたんです。お客さんにはどうしても待ち時間ができてしまうものの、何とかして行かせてあげたいと思い、目印に観光協会のチラシを持って立ってもらいました。無事に連れて行ってもらえてホッとしました。
――それは大変でしたね。細川さんだからこそ実現できたことなのでは。
お客さんはすごく喜んでくれました。みんなのためになるかどうかを考えるのが、ロータリー精神だと思っています。
――細川さんは上市ロータリークラブにも所属されていますもんね。ところで設備についてですが、お風呂と食事はなしということでよろしいですか。
はい。お風呂はないので、徒歩5分のところにある銭湯「松乃湯」か、1.5kmの場所にある温泉施設「アルプスの湯」をご利用いただいています。できるだけ町なかの食事処を利用してほしいので食事はついていないのですが、徒歩2分のところにある「お食事処 山本屋」をはじめ、様々な飲食店がありますし、夜は地下の「コーヒー&スナック もぐら」で宿泊者限定のお得なプランもご用意しています。
SNSツールを利用し意思疎通
――離れた場所にいるメンバーとはどうやってやり取りされているんですか。
東京メンバーとの連絡は、LINE(ライン)のグループでやり取りしています。その前からスマホは使っていたものの、ほぼ電話とメールしかやったことがなかったので、LINEのアプリを入れるところからスタートしました。大変ですが、楽しんでいます。
――LINEデビューされたんですね。
シルバー人材センターから派遣されているスタッフにもLINEデビューしてもらい、みんなでグループを作ってやり取りしています。上市のスタッフ2人にはゲストが来られる日程を把握し、2階の掃除とリネンの管理、消耗品の確認など実務を担ってもらえて助かっています。トイレットペーパーや扇風機など、「これが足りない」となると買ってきてすぐに設置しています。宿泊の稼働率は65%くらいですが、2019年の5~6月だけで約80人が20日ほど宿泊されているので、時期によってはいっぱいです。
――大人気ですね!
おかげさまで。町外でPRする時、「上市町は山まで10分、海まで10分」といつも言っています。こんないいところは他にないと思います。
――細川さんをモデルにして、こういったビジネスがどんどんできればいいですね!
この会社(ファンファン上市)の目的の1つが、それです。この町にゲストハウスを増やし、たくさんになることで「この小さな町には何か知られざる魅力があるんじゃないか」と思ってもらいたい。上市にはまだまだ伸びしろがありますよ。
現場のホスピタリティーを信頼
――御子柴さんにもお話しを伺いたいと思います。この事業に参加された経緯を教えてもらえますか。
2018年にたまたま加形さんと知り合い、紹介されてdotの2人(御子柴さん、吉玉さん)で初めて上市町に来て民泊したんです。翌日にもぐらの2階を見学に来ました。
――上市町はどんな印象でしたか?
映画「おおかみこどもの雨と雪」のイメージでしたね。僕は長野県出身なんですが、実家と同じような雰囲気です。地方創生として、都市から離れている地方で宿泊事業をしたらどうなるかのシミュレーションをしようと考えました。かなりのチャレンジでしたね。
――実際、オープンされてからはいかがですか?
お客さんの6~7割がインバウンドの人で、5月には立山アルペンルートの人気もあって国籍問わず予約が多くてびっくりしました。特に東南アジアやアメリカからの観光客が多かったです。
――海外からのお客さんが多いと大変なこともありますか?
いえ、お客さんの情報はAirbnb(エアビーアンドビー)を通して管理されているので安心です。海外の方だとパスポート情報も必要ですし、クレジットカードで事前決済するなど、ある程度しっかりした人でないと利用できないシステムになっています。どういう人が来ているか、僕らはそういったデータを俯瞰して見ています。
――なるほど。
冬には寒さチェックのために加形さんと試泊(しはく)したところ、ストーブとホットカーペットで意外と暖かかった。お客さんから「ふかふかの布団で気持ちいい」というレビューがありましたが、実際に泊まると本当に気持ちいいですよ。
――「試泊」、初めて聞きました。自分たちで試しに泊まられるんですね。
試泊をすると、改善要素が分かりますからね。自分の泊まりたいところを作るためにも、大切なことです。
地方での事業は、静岡県で御殿場の宿泊施設の集客に携わったことがありますが、今回のように完全無人の形では初めてです。だからこんなにお客さんが来られるとは思わなかった。民家なので階段の段差が大きいとかデメリットもありますが、日本人の方は鉄オタの人が地鉄(富山地方鉄道)に乗るために来たついでに泊まったとか、ももクロのライブ時とか、需要は計り知れません。僕も毎回、北陸新幹線で富山駅へ、そこから地鉄で上市駅まで来ていますよ。上市町でプチ移住体験ができるのがいいですね。今の観光客って、どこへ行くにもコンテンツはそれほど求めていないことが多いです。川沿いを歩くなど、空間や体験自体を楽しみたいと思っている人が多い。夏は窓を開けて扇風機をつければ、川沿いなのでとても気持ちいいですよ。
――富山と東京という離れた場所で一緒に仕事をすることについてはいかがですか?
それぞれがお客さんのために主体的に動かないとダメだと思っています。こういった働き方は一人ひとりの仕事の役割が大きくなるし、その分やりがいも大きくなります。運営できる体制を作ってしまえば、あとは現場のパワーで高めていくことが大切です。自分たちが楽しいようにやってほしいし、そうじゃないと続かない。お客さんのレビューを見て、扇風機を導入するなど、少額の経費なら現場判断でやってもらえたらいいと思っています。対応のスピードが遅い方が問題なので。
――信頼関係で成り立っているんですね。
それはもう、その通りです。重要なのは現場で何が起こっているか。都市部での無人で行うノウハウはありますが、ゲストハウス松月のコンテンツはママ(細川さん)そのものなので、現場は全てお任せしています。ホスピタリティー(おもてなし)や清掃は、僕たちにはなかなか見えない部分ですが、モチベーション高くやり続けてもらえるというのが1番重要です。どんなことがあったのか、現場の声を聞いて少しずつ改善していっています。
――最後に、今後の展望を教えてもらえますか。
まずは一年やってみないと季節要因が分からないので、一年経ってみて、それからですね。
――わかりました。細川さん、御子柴さん、今日はどうもありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
ゲストハウス松月を訪れる人に人気なのが、昔の公衆電話型のジュークボックス。細川さんが上市町の方にもらったそうです。受話器をとって10円を入れ、5を押すと5番目の曲というように、10曲が選べます。ノスタルジックな雰囲気のゲストハウスで、日本の風情が感じられていいですね。
トイレは1階にあり、洋式なので老若男女問わず利用しやすくなっています。
「気持ちが若いので、何でもしたいんです」と、どんどん新しいことにチャレンジされる細川さん、本当にすごいと思います。上市町の既にある魅力を活かし、新しい事業形態で新たな風を生み、町に良い影響をもたらされていると思います。細川さんのお話を聞いていると、私も何かしたくなってきました!
●DATA●
店名 | ゲストハウス松月(しょうげつ) |
住所 | 上市町石浦町31 |
電話番号 | 076-473-0085(コーヒー&スナック もぐら) |
FAX番号 | なし |
ホームページ | https://www.airbnb.jp/rooms/30057070?adults=1&source_impression_id=p3_1571893724_JyH9VfWKyTaANGKx |
Facebookページ | なし |
なし | |
営業時間 | チェックイン: 16:00~00:00 チェックアウト: 10:00 |
定休日 | なし |
駐車場 | あり(2台まで) |
設備・情報 | Wi-Fi完備、バスタオル(シャワー・お風呂なし)、フェイスタオル、ポット、コップ、冷蔵庫、布団、シーツ、石鹸、トイレットペーパー、暖房器具(ホットカーペット、ミニヒーター)、テーブル、椅子、ハンガー、扇風機 |
オーナー | 細川 和子 |
オープン | 2018年12月 |